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「けっきょくそのあと俺がサトルを呼び出して、ミユがリナを呼び出したの。ルイにも連絡したけれどその日も用事があるとかでこなかったな。ときどき彼女つきあい悪くてさ――、そうは言ってもそんな無理しないところが好きだがね」
他愛もない話をしているところへ三人の女たちが戻ってきた。
「帰らなきゃ」瑠衣子がいきなり表明した。
「え、まじ?」悟が訊いた。「二時間も経ってないよ、まだ一時間はゆっくりできる」
「あなたたちはもう少しいるといいわ。リナもミユも残るでしょうから。わたしは用事を思い出したからゆりかもめで帰る。俊一、自由にしなさいね」瑠衣子は微笑みながらきびすを返して歩き出した。
「ルイ、一緒に送ってもらおうよ」栗色のショートヘアでおしゃれなバッグを斜めがけにした明るい表情の美優が声をかけた。
「そうだよ、まだ日は高いよ」里奈がたたみかけた。彼女はストレートの髪を肩までたらし、風でウエストラインがめだつ軽やかなチュニックをはおっていた。
ふたりとも美しかったが瑠衣子にはおよばないと俊一は思い、そんな勝手な考察を失礼なことだと反省した。
「楽しかった。またね」瑠衣子は小さく手をふった。
「やっぱりな。俺ら、またふられたんだよ」雄太が小声でもらした。
「懲りないよね、あんたたち」美優が茶化した。「ここからだとリナが芝公園だし、わたしが芝浦だから最後に降りるのがルイ。ユータに口説かれるのが面倒だったのね」
「それ言う?」雄太が情けなさそうな顔で美優に詰め寄った。
「サトルは引き下がったと思われているけれどユータはね」里奈が補足して美優と笑い合った。

美優がつづけた。「マンハッタンに住むの、ユータ? ルイだけ誘っても難しいでしょ。休暇が取れたら私らがルイを連れていってあげる――」
そこまでを聴いて俊一は思い出したように走り出した。「瑠衣子さん! 待って」
「え、行っちゃうの、きみまで」悟が叫んだ。
「お世話になりました。瑠衣子さんと帰ります。楽しかったです。みなさん、また」俊一は直立して申し開きをし、丁寧に一礼した。
俊一は瑠衣子を追った。
だが、最寄りのゆりかもめの駅で瑠衣子に追いつくことはできなかった。数分と離れていない場所でも瑠衣子が人込みに紛れてしまえば見つけられず、行きちがいになることはある。彼らがいた場所とモノレールの駅まではあまりに近かったが、それでも瑠衣子が姿を隠してしまったことを考え、彼女はひとりになりたかったのだと俊一は思った。だから執拗に探すことは控えた。
彼はひとりでゆりかもめに乗り新橋駅まで行った。そこから電車を乗り継いで久が原の家に戻ったが日暮れまでにはまだ遠く、初夏の日差しにオールドローズの薄い花びらが輝いていた。俊一の予想通り瑠衣子は帰ってきていなかった。
「瑠衣ちゃんは?」
母の光子に訊ねられた俊一は、「お台場まで一緒に行ったよ、瑠衣子さんの友達と。先に帰ってきた」と答えた。「瑠衣子さんもあの人たちとはもう一緒じゃないんだけれどね」
「じゃぁ、誰と一緒なの」
「知らないよ。誰とも一緒じゃないと思う」
「あっそう」光子は居間のソファで読書をしていたが、あっさりとその姿勢に戻った。
夕食時には夫の葉山良治がきて一緒に食事を済ませてから、俊一と三人で高輪台のマンションに戻ることになっていたから、光子はのんびりと寛いでいた。良治はアルコールが苦手な体質で休日の夕食後に車を運転するのにも問題がなかった。

