動かぬ唇で彼女はささやく
うすい衣のひだから、なまめかしい素肌を覗かせながら
けれど儚く光に透けて長い両手を差し延べながら
ほとんど見る者の想像でしかない微笑みを投げる
彼女の体は輪郭を持たない
だのに鮮やかにそこに立ち尽くし
地底までもつづく薄絹の裾で風位を教えている
さあ、嘆くのはおやめ
いつか交わした約束のとおりこうして来ました
頬をうずめ、やすらうがいい
この温もりはあなたのもの
この冷たさはあなたのもの
彼女は知っている、知りすぎている
出会う以前から多くの者たちが彼女を夢見ることを
だから、高慢すぎるほどの自信をもって崇拝者たちにささやく
沈む心に火をともすため
魅惑のしとねをあとにしました
征服されざる者、それがわたし
いかなるときにも、へつらわず、拒まず、侵されることなく
我が意のままに多くの者たちをなぐさめ養っている
拠り所となり価値あるものとなり
惑わせるものとなって手を延べるのはわたしのほう
狂ったように所有した気になる人々は
陶酔にはばまれ何も気づかない
地球年齢にして二十数億年という遙かな昔
つまりはやがて、ヒトの脳というものが
知的発展と抗争をくりひろげることになる予兆すらないころから
彼女はことの起こりと経過と小さな終極のすべてを遠見してきた
そしていま、ヒトの営みの伴走者となり
とうぜんのごとき愛人となった
その計略が何者によるかは不明だ
ともかくも地球は年齢を重ね
彼女はここにいる
熱いまなざしで新参者たちを暴きつづける
さぁ、もっとわたしを引き寄せ
なにもかもを打ち明けてごらんなさい
