黄昏のアペリティフ Twilight aperitif

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薄闇に座り込む、わたしの記憶のなかでも彼は涙を持たない。天真爛漫はひとつの憧れの姿勢として心を打つだろうが、それを勧める彼とて豪快さの真の意味を知らずにいる。

どう間違っても、馬鹿笑いや仰々しさが弾みでてくる祭りのような高揚が、彼の周囲に立ち込めることはない。祭りといったが、それこそ父の不在を理解できなかった幼い時分を思い出させて、ある時期彼の悲愴を覚ます元となった。彼はしかし素直な青年になり、誕生した季節の特徴を与えられたような暖かさをにじませる、豊かな笑みの所有者となった。星々を相手にした考察には、並みの悲しみや喜びなどは大きく座を占める材料とはなり得ないため、あらゆるものごとへの無条件の理解という秘法が用意されるのみであろう。

もはや焦燥や呵責が竜巻を起こして彼を苛むことはない。不可視の衝立の向こうで、青年は瑞々しく透明感を打ち出して、望むかぎりどんな人生でも生きられる無垢な頃の永遠の可能性を所有したまま、ただ密かに心意を澄ましている。

結局のところ、自分以外のなにものにもならないことをその姿勢で公言して、いつかは静かに彼を知る人の心に舞い戻るだろう。

さて、わたしは何ということのない銘柄のほろ苦い飲み物を取り出して、清らなる貧しさを楽しもう。キャンドルライトも粋な恋人も向かいにはないけれど、ありあまる希望とちょっとした気取りに促されて、誇らかに歩いていられるだろう。

過去を繙いたのは満たされない日々への反動なんかじゃないわよ、お兄さま。熟成したワインが美味なように、精神のあらゆる側面を生きることになった心の軌跡が、ときには励みや潤いといった養分の芽生える轍ともなって人を捉えることもあるからです。お兄さまがお兄さまなりの役目に徹して悠然と頂にいるのなら、わたしは下界でたくさんの人々と交わってきましょう。もちろん時にはこうして、たっぷりとした回顧に寛ぎながら。                                    

完 了

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