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俊一は営業部門で伯父の会社の一員だが、今回捕まった産業スパイらしい人間たちとの接点はなかった。彼は、自社商品の利点をしっかりと理解して心底すばらしいと思えないかぎり自信のある営業トークができないため、時たま研究開発部に顔を出してはマニュアルにない質疑応答を専門家たちにしかけることがあって、それは嘘やオーバートークが苦手な彼を知られる残念な機会になると同時に、商品への知識を深めようとする姿勢が好感を持たれるという得な側面もあるものだった。
複数のメディアで使われている写真は三年前のもので、取引先の通信会社が催した年末の懇親会に瑠衣子が初めて裕三に同行して出席したときのものだ。裕三の会社からも数名が出席し、そのなかに南米の国出身で現地採用して東京に研修にきていたIT技術者の男がふたりいた。テレビで流れたのは、浅黒い肌の人懐っこそうな笑顔の彼らと、東京本社勤務をしている日本人の男、それと瑠衣子の四人が並んで写っているものだ。裕三が取引先の幹部と談笑中に、給仕にカクテルを勧められた瑠衣子がほっそりとしたグラスの柄を取った直後、父の会社に在籍する日本人の若い男に声をかけられ、その男を介して南米からの彼らと一緒になって、他愛なく撮った一枚だった。と、俊一は夕方教えられていた。
俊一はそんな写真があることをテレビで見て初めて知り、それがしばしば各局で映し出されるのを苦々しく思っていた。どういう背景のものか気になっていたが、同じような思いでいたのは俊一だけではなかった。
テレビに流れたそれは、瑠衣子ともうひとりの日本人の顔に白いモヤのようなものをかけて、人物特定が困難なように映像処理されていた。それでも確かに瑠衣子であると確認することはたやすかった。
青山雄太と相川里奈もすぐにそうだと理解したようだ。報道されたネットニュースの社名を見て瑠衣子を案じ、最近しばしば連絡を入れてきていたようだが、きょうになって瑠衣子が八ケ岳の別荘に向かっていると知ると、北陸新幹線とタクシーを乗り継いで追いかけてきた。彼らの到着は東京から自家の運転手が手慣れた運転で乗用車を飛ばしてきた瑠衣子たちから、わずかに一時間ほどあとのことだった。
再会した雄太が、瑠衣子との酒の席で、ネットやワイドショーで扱われている写真の背景を質問した。同席していた俊一も里奈と一緒に瑠衣子の説明を耳にした。

